顧客からのクレームが迷惑行為に発展してしまうカスタマーハラスメント(カスハラ)。
いつ起こるかわからないカスハラに対応するためには、日頃からの備えが大切です。この記事では、カスハラ被害でお困りの事態になった際、企業や従業員の支えになり、スムーズな解決へと導くためのカスハラ相談窓口についてわかりやすく解説します。
カスハラとは

カスハラとは、顧客からの不当な要求や迷惑行為のことを言います。
具体的には、暴言や暴行、嫌がらせ、居座り、金品の要求などを行い、営業を妨害したり、従業員の心身に悪影響を及ぼしたりする悪質な迷惑行為です。カスハラを起こす当事者は顧客の他、企業の取引先の場合もあり、慎重な対応が求められます。
なぜカスハラ相談窓口を明確にすべきなのか
カスハラの特性上、相手が顧客であるだけに問題化してよいのか、どこまで言い返してよいのかなど迷うケースも多いでしょう。自分の至らなさを指摘されるのではと危惧して周囲に相談できず、ひとりで抱え込んでしまうケースも少なくありません。
被害者が孤立してしまうケースを避けるため、専門の窓口に相談することは大きな助けになります。
相談窓口を明確にするべき理由
相談窓口を明確にする理由は、従業員をカスハラ被害から守るためです。
企業には、従業員の健全な職場環境を確保するよう、「安全配慮義務」が労働契約法第五条に定められています。
安全配慮義務の観点から、業務やメンタルに影響を及ぼすカスハラから従業員を守ることは雇用側の義務といえます。
どういう状況がカスハラなのかという判断基準や、どこに相談すればよいのかが、事前にマニュアルとして共有されていると安心して働くことができるのです。
社内に相談窓口を設置するメリット
カスハラ相談窓口を社内に設置すると、複数のメリットが得られます。
【社内に相談窓口を設置するメリット】
・いつでも気軽に相談できる安心感が生まれる
・社内業務を理解している人に聞いてもらえるため話が早い
・社内のカスハラの実態を把握しやすい
・早期の対応で、事態の深刻化を回避できる
・事例データを分析し、ノウハウの形成に活かすことができる
このように、社内の相談窓口は従業員にも会社側にもメリットがあります。
【社内】社内にカスハラの相談窓口を設置するのがおすすめ

カスハラ相談窓口を社内に設置するとメリットが大きいことを説明しました。
しかし、近年のカスハラ発生数の増加に対し、社内の相談体制が十分整っていないのが実状です。
企業は従業員の安全を確保する義務があります。被害者だけが抱え込むことのないように相談先を明らかにし、カスハラに対応できる体制を整えましょう。
では、どのように設置すればよいか具体的に説明します。
カスハラ相談窓口の設置方法
相談窓口は、相談先が明らかになっていることが重要なので、必ずしも専門部署である必要はありません。連絡先の担当者を決めておくことで窓口になります。
どのような相談窓口にするかを決定
関わる可能性のある法務や人事の部署、産業医、顧問弁護士、カウンセラーなども巻き込み、会社のカスハラ対応への指針にもとづいて運営方法を考えます。窓口担当者のほか、連絡方法、連絡先、相談可能時間、記録方法、社内の手続き方法も決めましょう。
窓口担当者を決定
顧客のクレーム対応ができる立場の人や、相談や悩みに向き合える人事労務担当者、状況を判断して外部の専門家と連携する法務担当者など、様々な立場の担当者が揃っていると万全です。
また、窓口担当者への負担を分散し、いつ発生しても対応できるよう、複数名の担当者をおくのが望ましいです。
社内への周知
「相談窓口の存在」と「相談窓口を利用してよいこと」が、従業員に浸透していることが重要です。
窓口を利用しても相談者のプライバシーが守られることや、窓口の利用によって相談者や会社に不利益が出ないことも明文化してあわせて知らせましょう。
見直しと改善
カスハラはいつどんな事例が起こるかわかりません。事例や相談状況を見直し、定期的にアップデートすることで、より利用しやすく様々なパターンに対応できる強固な運営ができるようになります。時には、顧問弁護士など外部の専門家のアドバイスも受けると効果的です。
カスハラ相談窓口を効果的に運営するには、組織全体で取り組んでいるという姿勢を見せ、窓口への相談を促す雰囲気作りが大切です。
カスハラ相談窓口で対応する範囲
窓口に相談があった際、相談者の困っている状況が解決するように対応することが相談窓口の役割です。
相談がなくても、カスハラだと思われる事案や困っている人の発見も大切な役割のひとつです。
【カスハラ相談窓口で対応する範囲】
・事実関係の正確な確認と事案への対応
・相談者のプライバシーやメンタルの不調への配慮の措置
・顧客対応、または顧客対応者を手配
・外部機関への連携依頼
・記録の作成
・再発防止のための取り組みと周知
相談者が直面している状況を理解するため丁寧にヒアリングし、メンタルにも配慮して寄り添います。相談者の心情を察し、個人情報の保護にも配慮しましょう。必要に応じて、産業医やカウンセラーとの面談も設定します。
また、別の顧客対応者を配置したり、必要な部署や担当者に情報共有し、連携を求めたりするなど、的確で迅速な判断が必要です。
トラブルが深刻化した場合は、弁護士や警察など外部の専門家への依頼も必要になります。
カスハラ相談窓口の担当者は?
カスハラ相談窓口の担当者には、従業員の業務内容を理解していて親身に話を聞くことができる人が向いています。経験が豊富で専門的なスキルを有する人であれば適任です。
もし、決定が難しいようなら、候補者に外部のカスハラ研修を受講してもらい、相談窓口担当者を育成する方法もあります。
【社外】カスハラを相談できる外部の窓口6選

会社の規模が小さく人数が不足している、適任者がいないなど、社内の相談窓口の設置が難しい場合、外部の相談窓口を利用できます。
- 警察
- 弁護士
- 厚生労働省 ハラスメント悩み相談室
- 厚生労働省 こころの耳
- 総合労働相談コーナー
- カスハラ研修機関に相談も
について説明します。
ケースによって使い分けするのが良い活用法です。ぜひ覚えておきましょう。
警察
カスハラの行為が悪質で不法であると判断できる場合、警察へ連絡してもかまいません。
緊急を要する場合は110番通報ですが、警察相談専用電話「#9110」で相談も可能です。
【相談すべき事例】
・長時間の居座りによる業務妨害
・大声での暴言や脅し
・従業員への暴行、器物損壊
・土下座や金品の要求
弁護士
警察が介入しないケースでは、弁護士の手助けがあると心強いサポートになります。適切なアドバイスを受けたり、書類の作成を依頼できたりするほか、顧客と話し合いを重ねても解決しない場合は、訴訟手続きを進めてもらうこともできます。
カスハラの事例に詳しい弁護士との連携体制を整えておくと安心です。
「カスハラの訴訟」について、こちらの記事で詳しく説明していますのでぜひご覧ください。
「カスハラを訴えたい!必要な対策4選と訴えるための5ステップ」
厚生労働省 ハラスメント悩み相談室
「ハラスメント悩み相談室」は厚生労働省管轄の相談窓口です。
メールまたはSNSを利用して、匿名で24時間いつでも相談することができ、72時間以内に返信がもらえます。悩みが大きくなる前に利用することをおすすめします。

(画像引用・参考:「ハラスメント悩み相談室」)
厚生労働省 こころの耳
「こころの耳」も厚生労働省が管轄する、働く人のための相談窓口です。
電話やSNS、メールで相談できます。個人、法人ともに利用でき、カスハラに限らず職場での悩み全般に対して相談対応してくれるので、気軽に利用できるでしょう。
(参考:「こころの耳」)
総合労働相談コーナー
「総合労働相談コーナー」は、各都道府県の労働局や全国の労働基準監督署内などの379箇所に設置されている相談窓口です。専門の相談員による面談または電話相談が用意されていて、労働者、事業主ともに相談が可能です。
労働に関する全般の問題に対応し、解決のための情報を提供してくれます。
(参考:総合労働相談コーナーのご案内)
カスハラ研修機関に相談も
ハラスメントの研修機関に相談することもひとつの方法です。
研修機関では、カスハラに適切に対応できる知識やスキルを身に付けられる研修を提供しています。現場で実践できる対応方法を学ぶことや、正しい知識を得ることができます。
ひと通りの研修を受講することで知見を養い、自信にもつながるので、カスハラ対応の基盤構築に役立つでしょう。
【事例】東京都がカスハラ対策実行のための特別相談窓口を設置
東京都では、カスハラ被害の防止策として令和5年4月に「特別相談窓口」を設置しました。東京都と中小企業振興公社が協力し、窓口での相談対応や対策の実行支援のための専門家派遣を行うとあります。また、カスハラ対策に関する講習会も開催するそうです。
事業活動の安定化を目指した自治体の支援は、中小企業にとって非常にありがたい施策です。
(参考:東京都 報道発表資料「新規事業 カスタマーハラスメント対策に向けた経営支援事業を実施」)
カスハラ相談窓口を活用して安心できる環境づくりを

カスハラはいつ起こるかわからない厄介な問題ですが、すぐに相談できる体制を整えておくことで、トラブル深刻化の回避や従業員の適切なケアを行うことができます。
社内に相談窓口を設置できると最良です。設置に際し、従業員教育が必要な場合は研修を導入すると短期間で専門スキルを学べます。
カスタマーハラスメント研修導入を検討している方へ
心理学の学校「Tree」では、カスハラ対策を中心とした企業研修やセミナーを実施しています。以下のようなニーズにお応えします。
- 従業員向けのメンタルヘルスケアを含むカスハラ対応研修
- クレームとカスハラの見分け方と柔軟な対応方法
- 未然防止策を取り入れた顧客対応マニュアルの策定支援
心理的な側面から顧客対応を見直し、従業員と顧客の両方が安心できる環境を一緒に構築していきましょう。
カスタマーハラスメント研修の導入をご検討されている方は
以下のフォームよりお問い合わせください。