利回りの良い物件を見つけたい
今の収入でも十分、しかし、今ある資金を活かしてさらに理想的な生活を送ることはできないか。そう考えた時「投資」が思い浮かぶ人も多いでしょう。今回は、投資の中でも経営の側面が強い不動産投資の利回りについて考えていきます。
不動産投資の利回りとは
不動産投資に関する利回りは、その他の投資とは分けて考える必要があります。考え方の違いから名称もいくつかあるため、個別に見ていきましょう。また、ここで利回りの参考となる情報を2点記載しておきます。
物件価格に対する利益の割合のこと
不動産の「利回り」で最初におさえておきたい名称は「表面利回り」と「実質利回り」の2種類です。この2つは大きく異なるため、検討段階から注視しなくてはなりません。
表面利回りは「物件価格に対する家賃収入の割合」を示しています。表面利回りは投資を促す業者の謳い文句としてよく使われます。注意しなければならないことは、株式の利回りとは考え方が異なる点です。
株式の場合、元金に対する利益配当の割合が利回りとなります。純粋に得をした分です。しかし不動産の場合は「家賃収入」、つまり必要経費を差引する前の「売上」が対象になっています。得をしているかどうかは表面利回りではわかりません。なお、表面利回りは、粗利回りと呼ぶこともあります。
実質利回りは表面利回りとは異なり、年間の家賃収入から年間の経費の総額を差し引いた利益を物件価格で割ります。オーナーになるにあたって考えたいのは当然、実質利回り。ネット利回りと呼ぶこともあります。
不動産投資の利回りは地方の方が高い
東京都内のアパートと地方のアパ―トの家賃は借り手からすれば大きな違いですが、オーナーとして見ると大差ありません。立地だけが異なる同じ建設のアパートであれば、都内が5万、地方が3万などの家賃であり、何倍も差があるわけではないということです。
一方、物件価格は倍以上異なることが多く見られます。とくに土地付きの物件であれば差が大きいです。家賃は倍も差がないのに、物件価格は倍以上の差がつくとなれば、表面利回りの計算上は地方の方が高くなります。
都内の平均利回りは 4.5%〜4.8%
2017年の都内人気エリアのワンルームマンションの利回りは4.5~4.8%です。人気エリアとは、港区、目黒区、品川区、大田区のいずれか、築5年以内、駅徒歩10分以内を指しています。
ただし、これは期待利回りの数値です。期待利回りは不動産投資家が「期待する」家賃収入を物件価格で割ったもの。しかし、5%の利回りを期待していても、運用してみたら4%ということもあります。あくまで期待の範疇であることに注意が必要です。この実際の取引における利回りは、取引利回りといいます。
期待値ではありますが、参考にはなります。仮に2,000万円の物件の期待利回りが4.5%とすると、家賃収入は年間90万円、月々75,000円の家賃設定が相当です。ちなみに、東京以外の築では5%超え~6%前半台となっています。都会であればあるほど期待利回りは低いです。
不動産投資の利回りの計算方法
不動産投資の利回りは種類別で計算方法が異なります。最初に理解すべきは「表面利回り」と「実質利回り」ですが、投資効率を考えるなら「自己資金投資利回り」、ローンを活用するなら「借入金返済後利回り」もおさえておきましょう。
表面利回りの計算方法
表面利回りは「物件価格に対する家賃収入の割合」です。式にすると下記となります。
年間(12カ月分)の家賃収入÷物件価格×100=表面利回り(%) |
家賃収入は月額ではなく12カ月分で計算をすることに注意。1,200万円の物件を購入し、家賃5万円で貸したとすると年間60万円の家賃収入で利回りは5%。アパートなどの複数戸がある場合は満室と仮定して計算します。
実質利回りの計算方法
実質利回りは経費を差し引いた利益を物件価格で割ったものです。
{(年間の家賃収入-年間の経費、税金等)÷物件価格}×100=実質利回り(%) |
実質利回りを計算するとき、確定申告時の経費とは一部異なることがあります。それは税金と減価償却費の計算です。減価償却費は、建物や設備の老朽化によって失っていく価値を、国税庁が発表している物件等の耐用年数に基づいて経費として計上できるという方法です。しかし、実際に出て行くお金ではありません。逆に、固定資産税等の税金に関しては確定申告後に決定するものですが、実際には出ていくお金です。
実質利回りにおいては期間収益(キャッシュフロー)を計算することが適切であるため、実際のお金の動きで計算します。ただし、ローンの金利に関しては実質利回りの計算に含まれていません。年間経費の例を下記に列挙しておきましょう。
- 固定資産税、都市計画税
- BMフィー(Building Management、Building Maintenance)
- PMフィー(Property Management)
- 損害保険料
- 維持修繕費
- 水道光熱費
BMフィーは物件の清掃や設備の点検、管理、保守などのハード面の管理業務委託費用のことです。PMフィーはクレーム対応、入居者募集、クレーム対応や賃料の回収などのソフト面を業務委託する際の費用です。法務サポートなどの財産管理サービスへの手数料もPMフィーとなります。
自己資金投資利回りの計算方法
自己資金投資利回り、とまた新しい単語が出てきました。これは複雑な上に投資効率と資産の危険性を検討するためのものであるため、表面利回りや実質利回りとは異なります。自己資金は、物件を購入するときの頭金が該当します。頭金を、家賃収入ではなく経費等を差し引いた「年間の利益」で割ります。計算式は下記を参照しましょう。
(年間の家賃収入-年間の経費)÷頭金×100=自己資金利回り(%) |
この式に、頭金100万円、年間の利益50,000円として当てはめてみると自己資金利回りは5%です。100万円の利息が5%であることを示しています。この考え方は、頭金を多額に用意して物件を購入するべきか、ローンを多くするべきかというレバレッジ効果、投資効率を考えるときに使うものです。
とはいえ、この考え方だけで物件の購入を判断するのは一旦ストップ。頭金が0円に近いほど自己資金利回りが上がるため、自己資金投資利回りだけで考えれば、頭金無しのローンで購入すれば良いという判断になりかねません。しかし、実際にはローンの返済期間が存在します。頭金が0円であれば返済期間も長引く、あるいは月々の返済額が大きいです。返し切れるかを同時に考えましょう。
「利回りが高いですよ」という業者の言葉の意味が自己資金利回りだと危険です。また、自己資金利回りが30%を超えるようだと、経費等の見込みが甘い恐れがあります。
借入金返済後利回りの計算方法
借入金返済後利回りは自己資金100%で物件を購入できた人には関係ありません。ローンがある場合の利回りの計算です。まずは式を見てみましょう。
{年間の家賃収入-(年間の経費+年間借入金返済額)}÷物件価格×100=借入金返済後利回り(%) |
実質利回りの計算にローンの返済額分も経費として組み入れたものです。さらに、空き室のリスクも考慮して、空き室リスクを家賃収入の5%程度計上することもあります。実質利回りよりもさらに「最終的に得られる利益」がわかりますが、勘定する項目が多いです。借入金返済後利回りが2%を切らない物件が良いとされています。
利回りの良い物件の特徴
利回りの計算方法がわかったところで、良い物件のイメージが掴めてきた方も多いのではないでしょうか。ザックリいえば「安く入手できて、空き室にならない物件」が利回りの良い物件です。しかし、そんな夢のような物件はあるのでしょうか。もう少し具体的な物件を例に挙げて説明します。
築年が古い物件
築年数が古い物件は狙い目ですが、古いほど良いというものでもありません。国税庁が発表している建物の構造別の耐用年数を超過している物件は、そもそもローンが組めなかったりします。耐用年数はRC(鉄筋コンクリート)造で47年、S(鉄骨)造が34年、木造が22年です。
都心にあるRC造のワンルームマンションで考えたとき、表面利回りは築20~35年で7~10%、築20年までで5%~6%程度、新築だと4~5%といわれています。
任意売却・競売物件された物件
競売物件は分かりやすいでしょう。ローンの担保になっていて、返済ができなくなったときに強制的に売りに出されるものです。ローンの貸主、つまり債権者が裁判所で競売手続をすると、不動産が差し押さえられ、裁判所で行われる入札によって換金されます。ちなみに、裁判所では「けいばい」と呼びます。「きょうばい」ではありません。
競売物件は債権を素早く回収することが目的であるため、不動産の実売価格よりもグッと安い金額で売りに出されます。しかし、内覧ができないこと、入札から取得までの手続きが面倒なこと、入札のライバルによっては価格が上がるなどのリスクがあります。また、「売却」と言いつつも実際には「所有権の移転」であるため売買契約にはならず、提示されていなかった欠陥がみつかっても瑕疵担保責任を問う相手はいません。
一方、任意売却は競売の一歩手前のような位置づけです。ローンの残債がある物件を売却するときは、基本的に売却代金と自己資金で完済します。これによって不動産の抵当権を解除するためです。しかし、売却代金と自己資金で完済しきれない場合が任意売却となります。
不動産の抵当権は解除してもらえますが、債務者は借金を返済し続けている状態です。しかし買い手からすれば関係はなく、市場価格よりも少し安く買えますし、内覧も可能です。任意売却物件はねらい目ですが、すぐに売れてしまいます。また、任意売却の場合は売買契約を結びますが、元の所有者に余裕がない状況であるため、瑕疵担保責任については免責の特約がついていることが多いです。
木造の物件
木造の物件は新築でもRC造やS造と比べて建築コストが低い分、物件価格も安いことが多いです。表面利回りだけで考えれば木造の物件は優位といえます。ただし、木造の場合は老朽化も早く、シロアリ被害などの対策も必要です。維持修繕費を含めた実質利回りや借入金返済後利回りでは、築年数が経過するほど低下するかもしれません。
借地権付の物件
借地権付の物件は、簡単に説明すると土地の所有権はついていない物件です。土地及び建物の所有者が、土地を手放すつもりはなくても建物だけ手放したい場合は、借地権つきの物件となります。
一般に、土地への権利が一切ない建物というのはありません。理屈としては存在し得るのですが、土地の所有者が急に変わったことで、いつ立ち退きを迫られるかわからない物件など売れるはずがないからです。借地権は種類にもよりますが、30年間は契約を存続できます。
土地を借りるための賃料は発生しますが、建物部分だけの購入となるため、計算上の利回りは高いです。一方で考えるべきことは転売の可否。建物は老朽化すれば価値が失われます。土地付きであれば土地としての売却も視野に入りますが、建物だけの所有の場合は売却が難しいです。
利回りの最低ラインは条件によって異なる
利回りの各種類において最低ラインは異なっています。まずは一般に言われる最低ラインを種類別の表で見てみましょう。自己資金投資利回りについては比較しづらいため省略しています。
表面利回り | 10%以上 |
実質利回り | 新築:3%程度 中古:4~5% |
借入金返済後利回り | 2%以上 |
表面利回りの最低ラインはあまり考えないほうが良いでしょう。注目すべきは実質利回りと借入金返済後利回りです。実質利回りについては新築と中古に分かれていますが、これは管理・修繕の費用を考慮した分の差です。新築では取得コストが高いため、利回りは低めです。一方、築年数が古いほど修繕や管理にコストがかかります。一見すると利回りは高いですが、取得当初から未来にそなえて収益を貯めておくべきでしょう
。
借入金返済後利回りは、確実に残しておける収益部分で、2%を切ると危険です。2%を切っている場合、思わぬ修繕等が発生したときに赤字転覆します。
一般にいわれる最低ラインは上記の通りですが、物件の老朽化の程度や立地についても差があるため一概に述べることはできません。見かけの利回りが良くても空き室になれば赤字になるため、参考程度にしておきましょう。
利回りの良い物件を探す方法
利回りだけの判断で物件を購入することはないとしても、シミュレーション段階から利回りの悪い物件を選ぶのは時間の無駄です。物件を検討するにあたっては利回りの良さも条件の1つです。先に記載した「利回りの良い物件の特徴」に合致する探し方を見てみましょう。
不動産検索サイトを利用する
最もメジャーな方法は不動産検索サイトを利用することです。サイトにもよりますが、オーナー向けの検索サイトでは概ね下記の情報で検索ができます。
- 建物の種別(マンション、アパート、戸建など)
- エリア
- 価格帯(上限、下限)
- 利回り(表面利回りがほとんど)
検索結果には、築年数や構造(木造、RC造など)、階数ほか建物の詳細、土地の用途地域などが表示されます。ここから得られる情報を最大限に引き出した上で実質利回りや借入金返済後利回りを計算すると良いでしょう。
任意売却物件と競売物件検索サイトを利用する
競売物件は裁判所が情報を開示します。各裁判所からの情報を統合した全国検索が可能な検索サイトがあり、それを活用することで探し出せます。一方、任意売却に関しては売れるのが早く、検索サイトの数も少ないです。
また、任意売却はローンを返しきれなかったことを世間に開示しなくても良い点が、所有者にとってのメリットなわけです。つまり、任意売却の物件なのか、通常の売買の物件なのかが明示されていません。不動産検索サイトで妙に安い物件があり、話を聞いてみたら任意売却だったということもあります。
非公開物件を紹介するサイトに登録する
非公開物件と言っても、完全に非公開なら買い手がつくわけがないため、一応公開はされています。不動産業界でいうところの「非公開」は不動産会社専用のREINS(レインズ)というデータベースに載せていない物件という意味です。REINSには実在する物件しか登録されていないため、アパートの一室が実は存在しない「おとり物件」かどうかを見ることもできます
。
ではREINSに登録されていないと実在しないのか、という話ですが、現在の所有者の事情などで登録しないこともあります。所有者が依頼した不動産会社だけが取扱っている物件です。ただ、不動産会社としても独占販売できるとはいえ売りたいですから、非公開物件だけを取り扱うサイトに情報提供することがあります。このサイトの多くは購入希望者に登録情報を求めるため、比較的クロ―ズな場となっています。
利回りだけが重要ではない その理由とは
さて、利回りについて解説してきましたが、物件を購入する際には利回りだけを重要視してはいけません。不動産「投資」とはいうものの、その実「経営」と考えたほうがが的確です。経営である以上は、株式のように利回りよりも実質の収支を計算すべきという想像がつきます。
利回りだけでは物件探しは難しい
表面利回り10%以上の物件だけを探してみればわかりますが、かなり築年数が経過していて修繕費などを考えると実質利回りが良いとはいえない物件が多く出てきます。検索サイトでは実質利回りの計算まではしていないことがほとんどだからです。
とりあえず利回りで検索してから考えるより、自己資金と返済可能なローンの枠、対応可能見込みの修繕費、運用したい不動産の特徴などを検討してから探すようにしましょう。
ローンがあれば赤字になる可能性がある
利回りがとても高くて安泰だと思って購入した物件が赤字になることは残念ながらあります。利回りは満室時で計算、または空き室リスクをある程度考慮する程度です。つまり、立地の利便性などが劣っており、利回りは高くても空き室では赤字です。さらにローンがあるとなれば、転売することも難しくなり赤字が継続する恐れがあります。
税金の支払いを考慮しない場合
頭金とローンで物件を購入するとしても、固定資産税と都市計画税は単純に不動産の評価額に対してかかります。つまり、所得が赤字でも不動産を所有する以上は税金を払わねばなりません。ローンは月々の支払、固定資産税等は年1回の通知で一括払いか4回払いかを選択できるため、多くの人はローンを返済と経費を差し引いた残高で税金を支払おうとします。
実務的にはそうなりますが、考え方としては税金が最優先。なぜなら、もし万が一自己破産に陥った場合でも税金は免除されないからです。つまり、税金を考慮しない利回りの計算は危険性が高いといえます。
転売益に利回りは関係ない
後の値上がりを期待して不動産を所有し、とりあえずは賃貸物件にして値上がりを待つという手法もあります。ただし、転売益は賃貸物件の利回りとは分けて考える必要があります。転売をするのであれば、利回りが低くても価値向上の可能性が高い不動産を所有するべきです。
不動産投資の利回りを良くするコツ
不動産投資は、計算上の利回りであれば良くすることは容易です。しかし、実際に運用するにあたっての利回りを良くするためにはコツがあります。物件選びのときに役立つものを2つ紹介しましょう。
空室になりづらい物件を選ぶ
どんなに利回りを計算しても、借り手が誰もいないのではただ空き室を保有しているだけになってしまいます。入居者募集を掲載し続ける宣伝費も増加するため、空き室になりづらい物件を選ぶ必要があるわけです。
自分が借りる立場になってみると見えてくることもあります。駅から近いか、主要な駅へのアクセス、間取りや経年劣化の具合、その地域へ引っ越しを考える人の傾向など数多くの判断材料が必要です。管理を業務委託する場合は自分が近隣に住んでいる必要はありませんが、実際に物件を見に行き、情報を精査した上で購入を検討しましょう。
リフォーム費用を抑える
物件自体の利回りで考えれば、築年数が古い木造の物件が最も安く手に入る可能性が高いです。しかし、ただ取得するだけでは貸し出せないことも多いでしょう。結局、水周りや古い畳をフローリングに変えなければ入居者が見つからないようでは本末転倒です。物件を購入する際は、取得後のリフォーム費用も鑑みて利回りを計算しましょう。
不動産投資は利回りが全てではないが成功への目安になる
投資という印象では利回りを重視しがちですが、不動産に至っては、ほとんど経営です。そのため、利回りを全ての判断基準とすることは避けることが無難。
とはいえ、シミュレーション段階から黒字ではない物件を回避することには大いに役立ちます。また、業者がどの利回りについて述べているのかを判断できることもメリットとなるでしょう。成功への目安として考えてみてください。