股関節の違和感や痛みには手術が必要な場合がある
股関節に痛みや違和感を感じることは誰もが経験しています。2〜3日で改善された場合はそのまま忘れてしまいますが、痛みが長く続いている場合や、徐々に痛みが強くなっている場合は、手術が必要な病気の可能性があります。
股関節の病気には先天性や特発性のものがあり、治療を行わない限り改善はされません。股関節の痛みの原因になる病気はいくつか考えられ、それぞれの病気ごとに治療法が異なります。治療方法や手術療法の種類や費用についての知識も高めておくことが重要です。
股関節の違和感や痛みの原因
足の付け根「股関節」は、立つや座る、歩くなど日常生活でよく動かす部分です。頻繁に動かす部位のため、体の中でも負担がかかりやすく、痛みが出ることが多々あります。
歩く時や足を組んで座った時に痛みを感じたり、急に痛みが強くなる場合、朝起床時に違和感を感じたりするケースなどがあります。股関節に痛みの原因が病気の場合もありますが、肥満や運動不足などの生活習慣が関係している場合もあります。
痛みが軽度の場合は、投薬や理学運動療法などの療法で症状を和らげることが可能ですが、痛みが長く続いている場合や、歩行が困難な場合は手術療法が必要なケースもあります。意外な原因が痛みの原因になっている可能性もあるため、早めに整形外科に受診する必要があります。
股関節の主な病気と治療法について
股関節に痛みを感じる場合、関節の動きが悪い場合や足の付け根に痛みを感じる、足の長さが左右で違う、足を引きずるような歩行になる場合は股関節の病気が疑われます。
変形性股関節症
足の爪が切りにくい、靴下が履きにくい、正座が困難、長時間の立ち姿勢や歩行が困難になる変形性股関節症は、関節軟骨が変性やすり減ることが原因です。関節に炎症が発生し痛みを感じます。
股関節形成不全や発育障害などにより起こる関節の炎症反応
変形性股関節症の症状は、足の付け根から太ももにかけて痛みを感じることが多く、その痛みはお尻や膝まで広範囲にわたって痛むことがあります。病状の初期では立ち上がる際や歩き始めに痛みを感じます。症状が進むと痛みが強くなり、時によっては常に痛みを感じたり、就寝中にも痛むケースがあります。
発症の原因は、発育性股関節形成不全や股関節の形成不全など、幼少時の病気や発育障害の後遺症で起こる場合が約8割を占めています。また、過去に原因となる要素がなくても高齢化によって発症するケースも見られます。
変形性股関節症の治療方法
変形性股関節症の診断はレントゲン撮影で行い、必要に応じCTやMRIなどの検査を行います。症状が初期のうちは、日常生活の中で痛みを感じる動作を避けるなど悪化させないような行動に配慮すること、痛み止めの服用などで対応します。
痛みを抱えていると行動が制限されてしまいます。筋肉の衰えを防ぐために、水中歩行などの運動療法も有効です。このような保存療法では症状が取れず、痛みが続く場合は手術療法が検討されます。
特発性大腿骨頭壊死症
特発性大腿骨頭壊死症は、急に股関節の痛みと歩行異常があらわれます。長い時間をかけて進行するタイプではなく、比較的急性に発症します。初期には機能障害があまりなく気付きにくい病気です。
大腿骨頭の血流障害による骨の壊死で発症する
骨も血液循環が必要で、特発性大腿骨頭壊死症は大腿骨頭部が血流障害を起こし、骨の壊死が引き起こされます。大腿部の骨が体重を支えることができなくなり、陥没変形を起こし痛みが発生します。
国内では年間に約2,000人が発症しています。原因はアルコールの多飲やステロイド(副腎皮質ホルモン)剤との関連が深いとされています。
特発性大腿骨頭壊死症の治療法
特発性大腿骨頭壊死症の診断には、レントゲン、MRI、骨シンチグラフィーが用いられます。骨シンチグラフィー検査は骨造成を調べる検査で、アイソトープを注射し撮影することで骨の病気や骨折、骨周辺組織の炎症を調べます。
発症初期で壊死範囲が狭い場合は、安静を保ち、痛み止め薬や杖の使用などの保存的治療が行われます。骨が丈夫な場合は痛みの緩和が期待できます。
壊死範囲が広い場合は、陥没変形の進行を抑える手術や人工股関節手術などで治療を行います。
関節リウマチ
関節リウマチの初期は、関節のこわばりや腫れ、そして痛みや発熱をともないます。進行すると軟骨や骨が破壊されることで、関節の脱臼や変形が生じます。
免疫異常により関節が傷害を受ける病気
関節リウマチは、関節が炎症を起こすことで関節の周囲にある滑膜が腫れ上がり、炎症が悪化すると軟骨や骨が破壊され、関節が変形する病気です。腫れや痛みの症状があり、股関節や膝関節など足の関節が変形すると痛みから日常生活に支障をきたします。
免疫異常により自分自身の細胞や組織を攻撃し炎症を引き起こし、症状が進行します。治療は基本的に内科での薬物治療が行われます。症状が股関節に及び、歩行などの日常の動作が困難な場合は、人口関節センターなどでの手術が必要です。
関節リウマチの治療法
早期に発見し、適切な治療を行うことで症状をコントロールし進行を防ぐことが可能です。
関節リウマチの治療法は投薬による薬物療法が基本です。リウマチ治療薬の他、生物学的製剤などで病気の進行を食い止める治療が可能になっています。薬物療法を中心に、リハビリテーションや手術など必要に応じて治療を行います。
股関節の手術療法について
股関節の痛みがひどく、日常の行動が制限されるような状態では、手術による治療が効果的といえるでしょう。股関節の代表的な手術療法を紹介します。
関節鏡視下手術
変形性股関節症に用いられる関節鏡視下手術は、 小さな高性能カメラを股関節内部に挿入し治療を行います。関節内部を観察し、異常に対しての診断を行い治療も同時に行われます。
手術で行われる処置は、損傷部位の修復や、股関節の内部にはがれ落ちた不要な組織や損傷部位の摘出・除去を行います。従来の切開手術に比べ、生理食塩水を流しながら行うため感染症を起こしにくいメリットがあります。また正常組織を傷つけにくく、痛みも少ないため患者の負担も小さくなります。
骨切り手術
骨切り手術と呼ばれる治療法は、関節の損傷が進んでいない、痛みが少ない場合に用いられることが多い手術です。患者自身の骨を残して手術する方法で、関節の向きの矯正や残った関節軟骨を荷重部になるよう修正し、股関節の痛み解消を目的に行われます。
寛骨臼(かんこくきゅう)と大腿骨頭(だいたいこっとう)の位置関係を修正し、骨の切除や形整で荷重が加わる関節部の位置関係を矯正します。
骨切り術には骨移植を行う棚形成術や、寛骨臼回転骨切り術、キアリー骨盤骨切り術、大腿骨内反骨切り術、外反骨切り術などがあり、症状や程度によってベストな方法が選択されます。
人工股関節置換術
人工股関節置換術は別名THA、THRとも呼ばれます。これは股関節の損傷部を取り除き、インプラント(人工関節)に置き換える手術です。痛みの原因になる部分を取り除くため 、症状が進んだ状態でも痛みの軽減に大きな効果が期待できます。一般的には人工股関節の耐用年数は15年前後とされています。
人工股関節置換術は、感染症がある場合や骨に強度がない場合、手術ができない場合があります。人工股関節を支えるための骨の強度が重要で、不十分な場合は人工股関節置換術が不適切と判断される可能性があります。
股関節の手術費用
股関節の手術及び入院に必要な費用ですが、治療内容によってり金額が変わるため、あくまでも目安としてください。下記の金額は患者負担分の医療費(3割負担)の概算額ですが、加入している健康保険の種類によって負担金の割合は異なります。
人工関節置換術(股)+骨移植術(THA)
- 4日:46万円
- 6日:50万円
- 8日:53万円
股関節の手術は、高額療養費制度の対象になります。高額療養費制度は、保険診療でかかった医療費が1カ月あたりの自己負担限度額を超過した金額を支給してもらえる制度です。自己負担限度額は年齢や所得額(標準報酬月額等)によって異なります。
下記が70歳未満の1カ月の自己負担限度額です。
- 住民税非課税の方3万5,400円
- 〜年収約370万円:5万7,600円
- 年収約370万円〜約770万円:8万100円+(10割分の医療費−26万7,000)×1%
- 年収約770万円〜約1,160万円:16万7,400円+(10割分の医療費−55万8,000)×1%
- 年収約1,160万円〜:25万2,600円+(10割分の医療費−84万2,000)×1%
高額な医療費がかかる入院を予定している場合、事前に「限度額適用認定証」の取得をすすめします。「限度額適用認定証」を病院窓口に提示することで、病院から請求される医療費が、高額療養費制度の自己負担限度額までになります。
入院や手術の前に会社の社会保険担当者や役所の国民健康保険担当窓口に相談し、「限度額適用認定証」の手続きをとってください。郵送での申し込みの場合、日数はかかる場合があるため、早めの手配が必要です。
股関節の手術後のリハビリについて
股関節の手術を終えれば完治するわけではありません。痛みに関しては改善が期待できますが、衰えた筋肉の回復など術後のリハビリは不可欠です。
関節を支える筋肉の強化が大切
股関節の痛みと長年付き合ってきた期間に比例して、筋力は落ちています。手術の後は関節を支えるためにも筋肉の強化が必要で、退院後も持続的なリハビリが重要です。水中歩行やアクアビクスなどの水中動作がすすめられるケースが多くあります。
股関節の手術では痛みをとることが第一の目的です。痛みがとれた後は、自らの筋肉で楽に歩くため筋肉の回復が不可欠です。個人差はあるでしょうが、適度な運動を持続させる必要があります。
日常生活ができるまでのリハビリができる病院を選ぼう
人工関節手術の後、可動域訓練や筋力強化のリハビリを行います。抜糸後に歩行浴、そして荷重トレーニングが始まります。つえや平行棒を使用して歩くトレーニングなどだいたいのプロセスが決まっています。
手術後に筋肉の痛みが残り、日常生活が困難な場合はリハビリの持続が必要です。筋肉に痛みがでるとリハビリができない状態が続き、機能が落ちるというマイナスの循環に陥らないように注意が必要です。
リハビリは時間がかかる作業ですが、日常生活をすごしながら長期的な回復への対応が必要です。術後のリハビリは、手術を受けた病院で、医師・看護師・理学療法士が情報を共有しながら行うのが理想的ですが、リハビリは手術を受けた病院と別のリハビリ病院を紹介されるケースが多くあります。
股関節の痛みや違和感がある場合は早めに整形外科に受診を
股関節の痛みが強い場合や、軽度の痛みでも長く続いている場合、また歩行が難しい場合は、股関節や大腿骨の病気の可能性があります。このような症状に悩んでいる場合は、早めに整形外科に受診を検討してください。
また、受診の際に的確に症状を伝えられるように、痛みに関して正しく把握しておきましょう。どのような動作で痛むのか、朝や就寝中などの痛みを感じる時間帯、また股関節の動気で気になる点や、他に感じている症状について、詳しく伝えられるようにしてください。