確定拠出年金と退職金は全く異なるものなのか?
2001年から導入がはじまった確定拠出年金。従来、老後に向けた資金としては、まとまった額の退職金と、年金によって賄う考え方が一般的でした。しかし、時代の流れの中で、会社の経営状態や、個人の職業選択にとらわれない形での年金制度の必要性が求められるようになりました。
退職金も確定拠出年金も、基本的には老後の資産形成に向けた制度ですが、契約者や運用の仕方、税額控除などの面からさまざまな違いがあります。ここでは確定拠出年金とはなにかについて見ていきましょう。また、退職金との違いについても見ていきます。
確定拠出年金とは
確定拠出年金とは、原則60歳以降に受け取りができる老後資金の準備制度です。退職金と違って、中途退職時に受け取ることはできません。確定拠出年金の拠出金を元手に、加入した金融機関が資産運用をします。加入する確定拠出年金の種類によっては、積立金を移し変えて運用を続けることが可能です。加入者自身が資産を運用するため、将来支給される年金額は積立額とそれぞれの運用次第で変わってきます。
確定拠出年金とは別に、国や企業が将来の年金の額を約束している国民年金(基礎的年金)や厚生年金(企業年金)などの従来の公的年金制度を「確定給付年金」と言っています。「確定拠出年金」の登場により、一般の会社員なら国民年金、厚生年金に加えて、確定拠出年金の三層で老後に備えられるようになりました。
確定拠出年金のメリットとしては、拠出金や運用益、受給時に税制上の免除が大きい点です。拠出金や運用益は非課税ですし、受給時には特例で控除額が高くなります。そのような確定拠出年金には、企業型と個人型があります。それぞれの特徴について見ていきましょう。
企業型確定拠出年金制度とは
確定拠出年金には個人型と企業型があると言いましたが、まずは「企業型確定拠出年金制度」について見ていきましょう。
確定拠出年金制度を実施する企業の従業員が加入できる年金制度
企業型確定拠出年金制度は通称「DC」と呼ばれ、国民年金の第2号被保険者である一般的な会社員が加入対象の制度です。勤め先の企業との労使合意に基づき確定拠出年金制度を実施する企業の従業員が加入できます。会社が制度を実施しなければ、企業型確定拠出年金制度には加入できません。
会社が掛金を積み立て(拠出)、従業員が自分で運用しながら受け取る制度です。原則60歳以降の受け取りです。会社で働いている間は積み立てて運用ができます。しかし、60歳で積み立てはできなくなるので注意しましょう。
企業型確定拠出年金の加入率
厚生労働省によれば、企業型年金加入者数は約6,482千人(2018年2月末現在速報値)で、実施事業主数は3万0,317社です。日本の就業者人口は6,530万人くらいなので、10人中1人位の割合で加入しています。会社が強制しているところや任意のところなど、また加入制度がないところなどさまざまな状況にあります。自分が企業型確定拠出年金制度の加入者であるか確認をしておきましょう。
企業型確定拠出年金のしくみ
企業型の確定拠出年金はどのような仕組みになっているのでしょうか。企業型確定拠出年金の仕組みをみていきましょう。
資金調達の為の掛金
基本的には企業型確定拠出年金制度を行う企業が掛け金を支払います。ただし、企業型年金の規約に、会社が拠出する掛金に加え、加入者本人が上乗せして掛け金を拠出することが定められていれば、加入者本人からの拠出も可能です。マッチング拠出といわれます。
受給額
受給額は企業(または加入者も)拠出している積立額に加えて、企業型確定拠出年金制度を運用する金融機関の運用実績の合計額が60歳になったら受給できます。運用は実績によってはマイナスになるリスクがありますが、拠出金は一定に増えていき、トータルでは拠出金以上に利益が得られる見込みが高いです。
転職した場合
確定拠出年金は原則として途中からの引出し、脱退はできません。60歳になるまでは掛け続けます。しかし、転職・離職の時も個人ごとの年金資産を持ち運ぶことはできます。これを「移換」といいます。移換により、また引き続き掛金を拠出することもできます。
勤務先が倒産した場合
たとえ勤務先の会社が倒産しても、社外積立てなので影響が無いのが企業型確定拠出年金制度のメリットです。企業内留保から拠出するのではなく、確定拠出年金を運用する金融機関が受給するため、勤務先が倒産しても受給できるのです。移換手続を忘れずに行いましょう。
個人型確定拠出年金とは
企業型とは別に個人型の確定拠出年金とはどのようなものなのか、ここで見ていきましょう。
全ての人が加入できる私的年金の制度
個人型確定拠出年金は通称:iDeCo(イデコ)と呼ばれています。2017年確定拠出年金法改正に基づく私的年金の制度です。長寿化による老後資金の不安から加入者が増加しています。企業型の対象が拡大された形で、第3号被保険者(専業主婦等)、公務員等共済加入者もiDeCoに加入できるようになりました。企業型確定拠出年金と違い全てを自分で運用する制度で、掛金の全額が所得税と住民税の税額軽減の対象です。
個人型確定拠出年金の特徴
それでは個人型確定拠出年金制度の特徴についてみていきましょう。
積立額は自分で設定できる
個人型確定拠出年金制度の積立額は5000円/月から可能です。以後、1,000円単位で上乗せでき、掛金の変更は年1回だけ可能です。職業により月額掛金の上限があります。
- 公務員:1万2000円
- 会社員(企業年金あり):1万2000円
- 会社員(企業年金なし):2万3000円
- 専業主婦(夫):2万3000円
- 自営業:6万8000円
これらの上限がかけられていますので、確定拠出年金制度を利用する場合は、他の年金などと合わせて上限に気をつけて利用しましょう。
好きな時に掛金拠出の休止や再開ができる
掛金拠出の休止・再開はいつでも可能です。納付方法は、自身の登録口座から引落しか、または給与天引きが選べます。 口座引落し日に残高不足の場合、その月は未納となり追納はできません。
受給の条件は3種類
確定拠出年金に加入した場合、次の3種類の条件から給付が受けられます。まず、「老齢給付金」は、原則として60歳から、年金または一時金として支給されます。次に、「障害給付金」は高度障害時に、年金または一時金として支給されます。 最後に「死亡一時金」は死亡時に一時金として支給されるものです。
退職金制度とは
それでは従来の退職金制度とはどのようなものだったのでしょうか。退職金制度についてみていきましょう。
会社を退職する際にまとまった金額を受け取れる制度
退職金制度、正式には「退職給付制度」といいます。退職金制度には、支給形態によって「退職一時金制度」と「退職年金制度」の2つに分けることができます。退職一時金制度は退職金を退職時に一括して支給する制度です。退職年金制度は一定の期間にわたり一定額を年金として支払う制度です。
どちらも、受取金額など含む全てにおいて各企業の規定で決められている制度です。つまり企業の独自制度で、法的義務はありません。法的義務があるのは公務員の退職手当ぐらいです。
退職金制度の導入率
東京都が実施したアンケートによると、集計している企業のうち、退職金制度について「制度あり」と回答した企業が69.8%、「制度なし」と回答した企業が 29.5%でした。また、「制度あり」と回答した企業の70.4%が「退職一時金のみ」と回答しており、25.9%が「退職一時金と退職年金の併用」と回答しています。退職金制度がある企業は年々減少していますので、自分の会社の現状を確認しておきましょう。
退職金の仕組み
では、退職金の仕組みについてみていきましょう。
資金調達の為の掛金
退職金の資金は勤務先の会社が利益の一部から用意しています。金額や制度内容は各企業によってさまざまです。公務員の場合は、役所の中で予算が組まれ、議会で承認を受けて退職金の掛金の確保をしています。
受給額
退職金制度は企業の自主的な慣習によるもので、受給額は社内規定であらかじめ決められている場合が多いです。概ね役職に応じて、受給額が増加する傾向にありますが、勤め先がどのような制度化は自身で確認する必用があります。
公務員の場合は人事院による勧告などによって受給額が決められています。
中途退職した場合
中途退職した場合は、まず会社の都合によるものか、自己都合による退職かで金額が変わってきます。次に、勤務年数に応じて支払われる金額が変わってきます。退職時に支払われる退職金は、大企業に対して中小企業は5〜7程度になる傾向が見られます。
先ほどと同じく、公務員は人事院勧告によって中途退職時の退職金額が定められています。
勤務先が倒産した場合
もしも、勤務先が倒産した場合、退職金の保証はありません。ただし、法的に倒産が認められた場合は裁判所の決定後に請求できる場合があります。そもそも倒産による破産手続きとは、支払い不能に陥った会社について、その財産を全て金銭に換えた上で、法律に定められた順位と方法に従って債権者に支払い、借金・債務を終わりにする手続きです。
未払いの給料がある、あるいは退職金があるという場合も、これは「債権」にほかなりませんので、従業員も立派な債権者の一人です。倒産前の時期に一方的に給料を減額されていたというケースもありますが、同意もしていないのに勝手に給料を下げるということは本来許されませんので、減額分も含めて「未払いの給料」という事になります。
退職時の受取方法と税制上の取扱い
では、退職時に確定拠出年金を受け取る方法と税制上の取り扱いについてみていきましょう。
受取方法について
確定拠出年金は受取方法として一時金と年金の二種類があります。それぞれの違いについて見ていきましょう。
一時金として受け取る
確定拠出年金は一時金として受け取る場合は、積立てきた拠出金と運用益を一度で、もらうものです。退職時の雑所得となり税金面で一番優遇されています。
一時金で受け取った時のデメリットは、受け取った金額以上に退職金が増えないことです。年金式では、多少なり運用益が出るので退職金が増えますが、一時金はそれがないのが唯一のデメリットです。ただし、受け取ってからNISAなどを利用して運用することもできます。もし、そう考えているのであればデメリットをカバーできます。
年金として分割で受け取る
もう一つに年金方式があります。5年、10年、20年、終身確定年金などがあり、長期になると総受取額が増えます。保険会社が運用している運用益が加わり一時金受け取りより受取額が多くなる傾向にあります。ただし、年金に税金がかかってくるので、控除額以上の年金を受け取る場合は、金額によって、目減りする可能性があります。
一時金と年金タイプの併用
最後に積立てた一部を一時金として受給し、残りを年金保険などの資産運用に回すことも可能です。例えば、2000万円受給した場合、1000万円を一時金、1000万円は保険加入(資産運用)などにできます。自分のライフプランや税金のどちらも考慮できる選択です。
税制上の取扱いについて
確定拠出年金は年金受け取り時の税制上の取り扱いが受け取り方によって変わってきます。受給方法について見ていきましょう。
一時金受取の場合は退職所得控除
一時金として受給する場合は退職所得控除が受けられます。退職所得だけに適用になる優遇制度で、
(収入金額(源泉徴収前の金額)退職所得控除額)×1/2=課税対象になる退職金の金額
として求められます。
- 20年超え:800万円+70万円×(勤続年数−20年)
- 20年以下:40万円×勤続年数 (80万円未満の場合は、80万円)
例えば、40年勤務した場合、
800万円+70万円×(40〜20年)=2,200万円
となり、2,200万円まで受給額が所得税から控除されます。
退職所得を含む所得税の計算
退職金の所得税を計算する時は、原則として他の所得とは切り離して計算します。なお、退職金の支払の際に「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に提出している人は、勤務先が所得税額及び復興特別所得税額を計算し、その退職金の支払の際、退職所得の金額に応じた所得税等の額が源泉徴収されるため、原則として確定申告は必要ありません。
勤続年数が15年の人の源泉徴収前の退職金の金額が1,300万円だったとすると、課税対象になる退職金の金額は次のようになります。
1,300万円(40万円×15年)×1/2=350万円(課税対象額)
これを厚生労働省の退職所得控除の早見表に当てはめて、速算表に基づけば、適用される所得税率は20%です。
(課税対象となる退職金の金額×20%42万7,500円)×102.1=(350万円×20%42万7,500円)×102.1%=27万8,222.5円
以上から、勤続15年で退職金1,300万である場合の所得税額は27万8,222円です。(1円未満の端数は切り捨て)
「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に提出していない人の退職金の所得税額を求める計算式は一律で20.42%がかかるため、以下の通りです。
1,300万円×20.42%=2,627,300円
年金受取の場合は公的年金等控除
確定拠出年金を年金型で受け取る場合は、公的年金等と同じものとして控除計算がされます。具体的にはまず、雑所得として年金を含めて年間20万円以上の所得がなければ所得税はかかりません。次に20万円以上の所得がある場合に、課税対象額を計算する際、所得の合計額に20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%、地方税5%)の税率で課税された課税対象額を出します。そこから、控除により38万円が控除されます。
それに加え、公的年金控除が適用されることになります。公的年金控除は年齢で別れています。65歳未満の方は、70万円の公的年金控除が適用され、108万円まで非課税です。65歳以上の場合には、控除額が増え基礎控除を含め158万円です。こちらも同様に、158万円未満の場合には非課税ですが、158万円を超えている場合には課税対象となります。確定拠出年金を受け取る際に、一時金としてか、年金としてか考慮す際の参考にしてみましょう。
確定拠出年金と退職金について早いうちから学んでおこう
2017年の改正によって確定拠出年金を売り出す金融機関が増えています。また、時代の流れのなかで、公的年金に対する不安も増加しています。加えて、社会情勢も不安定で、いまだ景気の回復感が得られない中、会社の倒産リスクも低くはありません。
まずは退職金があるのかどうか、確定拠出年金制度に加入しているかどうかを確認しましょう。もし、どちらもなければ税制上のメリットが高い確定拠出年金について早いうちから学んで加入の検討をしてみましょう。