股関節の痛みの原因はなにか
股関節の痛みに関する悩みを抱える人はかなり多く、400万人以上いるとも言われています。股関節は上半身の重みを支え、歩行や立ち上がる動作、階段の上り下りなど日常生活における基本動作に深く関わる重要な部位となります。股関節に痛みが起こると動きに制限がかかってしまい、日常生活にも支障をきたす恐れがあります。
股関節になんらかの原因が作用して痛みが生じるのであれば、その原因について知り、適切な対処を行う必要があります。股関節は人にとって欠かせない大切な関節となりますので、きちんと対処をしてあげることが大切です。
股関節の構造
股関節は、体重を支えながら、歩く、立つ、昇る、降りるといった動作に関与しており、日常生活のほとんどの動作に影響を与える関節と言えます。股関節痛を生じると、日常的な動作に支障を伴い、悪化すると立つことも歩くことも困難になる可能性があります。
股関節の構造は、骨盤の両サイド下部に、大腿骨の上部がすっぽり収まるようなくぼみ(寛骨臼)があり、そのくぼみに大腿骨骨頭の丸い先端がはまり込む形で関節を形成しています。股関節は、筋肉や腱によって補強されており、前後左右、ねじるなどの動作を可能にしています。骨盤両端のくぼみである寛骨臼と大腿骨骨頭の間には2~4ミリ程の厚みのある軟骨があり、関節の表面を覆っています。
この軟骨がクッションの役割を果たすことで、負荷を吸収して股関節の動きをスムーズにしてくれています。骨頭の2/3が寛骨臼にはまっている状態になることで、股関節の安定性、さらに負荷を支える機能を正常に保つことを可能にしています。このように、股関節は、寛骨臼と大腿骨骨頭、軟骨、筋肉などのチームワークによって、健康な状態が保たれている構造になっています。
股関節の痛みの原因
股関節の痛みの原因で最も多いのは、変形性股関節症と言われています。股関節は、骨盤にある寛骨臼のくぼみに球状の大腿骨骨頭がはまり込んだ構造になっています。変形性股関節症とは、股関節の間にある軟骨が、加齢とともに劣化したり、摩耗して変形を起こすことで発症する病気です。
変形性股関節症になるのは、骨粗鬆症の高齢の女性に多いとされていますが、生まれつき痛みを生じやすい形をしている人も存在します。本来、股関節脱臼により発症しやすい病気ですが、近年、骨盤の構造は正常でも、軟骨の劣化により変形性股関節症になる人が増加傾向にあります。股関節の痛みで注意が必要なのは、股関節の異常に気がついた時には、すでに症状が進行し、手遅れの状態になることです。
股関節の痛みに気づいて病院に行っても、原因がはっきりしないケースも多く、経過観察となってしまいますが、時間が経つ程に症状が悪化してしまうためです。最終的には変形性股関節症と診断され、痛みがひどくなっている状況に陥ってしまいます。股関節の痛みを発症した時に、最も重要なことは、原因を突き止めることです。痛みを感じたらすぐに専門医にかかることが大切です。
代表的な股関節の病気
股関節の痛みに関わる代表的な病気について紹介します。腰に疾患がある場合でも、股関節が痛くなるケースもありますが、股関節を上下左右、ひねるなど、色々な方向に動かしてみても痛みを感じない場合は、股関節以外の病気の可能性が考えられます。
変形性股関節症
先に紹介したように、痛みの原因として最も多い「変形性股関節症」とは、寛骨臼と骨頭の間にある軟骨が摩耗したり、変形してしまうことが原因で痛みを生じる病気です。変形性股関節症には一次性変形性股関節症と、二次性変形性股関節症の2種類があり、日本人の場合は、生まれつきの疾患、または、股関節の発育が原因となり発症する二次性変形性股関節症である確率が高く、女性に多い特徴があります。
症状
変形性股関節症による症状は、初期段階ではお尻や太もも、ヒザに痛み、または違和感が出ることが多く、そのため、変形性股関節症と気づきにくい傾向があります。主な症状としては、立ち上がった時や、歩き出しの時に、足の付根に痛みが走るという症状が考えられます。変形性股関節症の症状が悪化すると、慢性的に痛みがひどくなり、寝ている時でさえ痛みが続くようになってしまいます。
一次性変形性股関節症
一次性変形性股関節症とは、はっきりとした原因が分からず、軟骨が摩耗し骨が変形することで、関節が壊れてしまう病気です。加齢や体重の増加、肉体労働、スポーツなど、強い負荷がかかることが原因で発症すると言われており、日本では割合が低く、欧米ではこの一次性が多いとされています。
二次性変形性股関節症
日本人に多い二次性変形性股関節症の場合は、割合的に女性が多い特徴があります。生まれつき、または赤ちゃんの頃に股関節を脱臼した後遺症、あるいは、寛骨臼の上部の発育が悪く小さいままで、骨頭を十分に包むことができないという原因で発症する病気です。つまり、先天性や子供の頃の後遺症、未発達であることが原因で引き起こる変形性股関節症となります。
大腿骨頸部骨折
大腿骨は、股関節の近くにある大腿骨頚部でカーブしています。その曲がった部分で体重を支えているのですが、転倒した際に外的な圧力がかかりやすい部位でもあります。結果として「大腿骨頸部骨折」となり、股関節に歩くこともできない程の強い痛みを発症します。特に、骨粗鬆症で骨がもろくなっている場合に発生しやすいため、高齢者の方に多く、寝たきりの原因として問題視されています。
特発性大腿骨頭壊死症
「特発性大腿骨頭壊死症」とは、大腿骨骨頭の一部が、血流が悪いなどの原因で壊死してしまう症状を指します。腐っているわけではなく、血が通わないために骨組織が死んでしまうことで陥る状態です。
この場合、壊死部分が潰れてはじめて痛みを生じますので、範囲が小さい場合は生涯傷まないケースもあります。特発性大腿骨頭壊死症の原因は、ステロイド剤の大量服用(または投与)、アルコールの過度な摂取により発生しやすくなるとされています。
リウマチ性股関節症
「リウマチ性股関節症」の場合は、股の付け根やお尻に痛みを発症し、安静にしていても痛みがひかないことが多い状態になります。全身に症状が現れる病気のため、全身の倦怠感や微熱、貧血を伴うことがあります。この病気は、免疫異常が原因で、細菌やウイルスに感染したり、ストレス、タバコ、出産、怪我などをきっかけにして発症すると言われています。免疫異常を抑える薬を投与して治療が行われます。
股関節唇損傷
「股関節唇損傷」とは、大腿骨骨頭の受け皿となる、骨盤側のくぼみの縁を覆う軟骨(股関節唇)に裂け目が入る病気です。股関節唇損傷になると、靴下を履くようなヒザを抱え込む動作の際に、痛みや違和感を感じるようになります。ひどい症状の場合は激痛が走ることもあります。自然治癒されるケースが多く、股関節に負担をかけないようにして経過観察となります。長期間改善しない場合は手術します。
股関節痛の改善方法
股関節痛を発症した時の改善方法について紹介します。また、股関節に痛みを感じなくても、坐骨神経痛やヒザの痛みが直らない場合は、早期検査を受けるようにしてください。特に変形性股関節症の場合、発見された時にはかなり進行している可能性があります。早期段階での股関節異常を発見することで、保存療法で対処できる可能性が高くなります。
日常生活で注意すること
股関節痛を改善するための日常生活における注意点とは、長い距離を歩かない、ランニングもNG、また、重いものを持たないよう気をつけて過ごすことです。股関節に負担をかけない生活を心がけることがポイントです。さらに、過度なアルコール摂取やカフェインの摂取も控えること、自転車や水泳など、股関節に極力負担をかけない運動を行うことを意識してください。
バランスのよい食生活をしながら、体重コントロールをして、太らないことも重要です。体重が増えると股関節への負担は3~5倍増しとなりますので、肥満にならないように、運動を継続的に行うことをおすすめします。
日常生活で工夫できること
生活様式を和式から洋式に変えることで、股関節への負担を軽減できます。例えば、トイレを洋式にしたり、お布団からベッドに変えたり、座布団から椅子に変えたりと、色々な工夫ができます。入浴の際も、高めのシャワーチェアーを用意すると股関節の動作の負担が少なく済みます。
他にも、杖の利用がおすすめです。杖をつくことで、2本足で支えていた体重を3分割できますので、骨盤の状態を水平に保つことができ、歩行の時の姿勢を安定させることに繋がります。無理は厳禁ですので、時には家族の手を借りてサポートを得ることも重要です。
運動療法
股関節を鍛える運動療法も有効な手段です。運動をするとダイエットにもなりますので、股関節にかかる負荷も減らせますので大変おすすめです。毎日の生活に運動を取り入れ、股関節周りの筋肉強化と柔軟性を高めることで、股関節の痛み改善に高い効果が期待できます。なお、関節や筋肉のコンディションによって、運動量や方法が違ってきます。医師や理学療法士の指導をきちんと受けて、従うことが大事となります。
温熱療法
体が冷えていると、血液が収縮を起こして血行不良や、リンパの流れが滞り、老廃物が溜まりやすくなります。また、股関節の血管を圧迫し、より一層股関節周りの筋肉が硬くなっていきます。股関節痛を防ぐためには、股関節の血流を良くするための温熱療法がおすすめです。
まずは、体を冷やしている生活習慣を見直すことから始めてみてください。冷房の設定を高くしたり、体を冷やすような格好を控え、体の中から温める食べ物を意識的に摂ることが大切です。また、軽い運動やお風呂に入ってしっかり温まることも忘れないようにしてください。
薬物療法
股関節痛を抑える治療の方法として、薬物療法の利用も考えられます。薬物療法は、症状の度合い、目的などで使用される薬物が異なります。飲み薬や湿布、塗り薬、座薬など、消炎鎮痛薬の使用や、股関節にヒアルロン酸を直接注射する方法で、痛みを軽減したり、炎症を抑えるケースもあります。
薬物を使用する場合は、副作用の恐れがありますので、必ず病院で専門の医師に相談し、自分の症状や状態、目的に合った薬物療法を行うことが大切です。
手術
股関節痛の症状が進行している場合は、手術によって治療が行なわれるケースもあります。変形性股関節症の治療法として、股関節の機能を残すための「骨切り術」や、最後の手段として「人工股関節置換術」などがあります。まずはあらゆる治療方法の可能性を探って、最終的には人工股関節置換術で治すことになります。では、この2つの手術について紹介します。
骨切り術
「骨切り術」の手術とは、骨盤を切るものと大腿骨を切る2種類があります。股関節を形作るこれらの骨を切って、関節の向きを人為的に矯正させて、軟骨が十分残っていて機能できる部分に体重がかかるようにする手術となります。
そうすることで、股関節の機能を温存することが可能となり、関節の機能を復活させることができます。骨切り術は、年齢が若くて、関節がそれ程傷んでおらず、まだ軟骨が残っている状態の人に選択される方法です。
人工股関節置換術
最後のカードとして「人工股関節置換術」が選ばれます。セメントを使用して骨と人工関節を接着させるセメントタイプと、セメント不使用のセメントレスタイプの2種類の手術があります。股関節の損傷部位を人工関節に置き換える手術であり、痛みの改善、足の長さの調節、関節機能の回復、歩行能力の向上に効果がある優れた方法となります。
この手術なら、ほとんどのケースで痛みを取り除くことができ、ほぼ問題なく歩行できるようになります。置換術が選ばれるのは、保存療法では改善見込みがない場合、あるいは、高齢者の方の場合に選択される手術となります。
予防と症状の進行を遅らせることが大事
股関節に痛みを生じる原因には、「変形性股関節症」「大腿骨頚部骨折」「特発性大腿骨頭壊死症」「リウマチ性股関節症」「股関節唇損傷」などが考えられます。改善するためには、股関節に負担がかかりにくい運動療法で股関節を鍛えたり、体重を増やさない努力が必要です。生活習慣を洋式に変える、杖の利用もおすすめです。
他、温熱療法、薬物療法、手術などの股関節痛を改善する方法が用いられます。日頃から痛みを予防する生活習慣を心がけ、痛みの症状には進行を遅らせる改善方法を実行します。痛みを発症した場合は、早期段階で原因を突き止めることが重要になりますので、すぐに専門医の診断を受けるようにすることが大切です。