特定口座にデメリットはあるのか
平成28年に税制が改正され、特定公社債を含め、多くの金融商品が、特定口座で扱えるように変わりました。これ以後は、一般口座と特定口座、という意味では、圧倒的に特定口座の優位性が高まり、一般口座を選ぶ意味はなくなりました。
しかし、特定口座の、源泉徴収あり/なし、はどちらを選べばよいのでしょうか?
このサイトでは、源泉徴収あり/なしそれぞれのデメリット、という観点から掘り下げ、あなたの投資状況に、最も向いているのはどちらなのか、を知るための判断材料を提供します。
特定口座 源泉徴収なしのデメリット
特定口座「源泉徴収なし」のデメリットにはどんなものがあるのでしょうか?
確定申告が必要になる
「源泉徴収なし」とは、株式の譲渡益、及び配当益に対する課税分が引かれない、ということですから基本的には確定申告をしなければなりません。
ここで「基本的に」とあえてつけたのは、「源泉徴収なし」でも確定申告をしなくてもよいケースがあるからです。株式などで得た利益が、20万円以内ならば、そもそも申告義務がありません。ですから厳密には「源泉徴収なし」=確定申告ではないのです。
確定申告をする、ということ自体手間が増えるので、その意味でデメリットになるのですが、実際に確定申告を行うと、さらにデメリットが生まれることになります。それを以下に述べます。
所得制限のあるものに影響が出る
児童手当など、その適用に所得制限がつけられている補助金があります。こうした種類の補助金などについては、確定申告をすることによって、その算出元となる収入が増えます。
この結果、この種の補助が受けられなくなったり、減額されてしまう可能性があるので気をつけましょう。
国民健康保険料が上がる
国民健康保険料は、均等割と言われる部分と、所得割と言われる部分で成り立っています。均等割りは世帯の人数に一定の額を乗じたもので、その世帯の固定額。一方所得割は、所得に応じて増減する部分です。
会社員の場合は、給与天引きされているため、問題になることはないのですが、自営業の場合、所得割は世帯総収入に応じて計算されます。ですから、確定申告によって譲渡益などが上乗せされると、国民健康保険料は増減されるのです。
実際にどれくらい増えるかは、所得割の税率によって決まっています。
この税率は、居住する市町村によって違うので、各自治体のホームページで確認しましょう。
住民税の申告が必要になる
確定申告では、住民税の申告も必要です。現在株式の譲渡益や配当益にかかる税金は、所得税が15%、住民税が5%、復興特別税が0.315%となっており、合計20.315%の税金がかかります。
特定口座 源泉徴収ありのデメリット
次に特定口座の「源泉徴収あり」のデメリットを考えてみましょう。
利益が少なかった場合損になる
前述したように、譲渡益や配当益が20万円以内だった場合、そもそも申告をする義務はありません。つまりその利益分は課税対象にならないということです。
しかし、「源泉徴収あり」の場合、お構いなしに源泉徴収されてしまうので、この分は損をしたことに。税率は前述したように20.315%、つまり約2割=4万円、が最低でも引かれてしまうのです。
最低でも、というのは、ここで問題にしているのは最終的な年間の利益なので、間に損失があった場合はもっと多くなるためです。では、例をあげて説明します。
ある株の購入譲渡をした結果10万円の利益が出たとします。便宜上税率を20%と仮定すると、このときに2万円の源泉徴収です。
この後、別の株の購入/譲渡で5万円の損失を出したとすると、トータルの利益は10-5=5万円。損失ですから源泉徴収はありません。
さらにこの後、また別の株の購入/譲渡で15万円の利益が出たとすると、トータルの利益は5+15=20万円となり、この際3万円が源泉徴収されます。源泉徴収されたトータル額は最初の投資時の2万円と合計して5万円、つまり1万円増えてしまいます。年間の利益は同じ20万円でも、間に損失があることにより、源泉徴収税額が増える、ということが、これでおわかりかと思います。
このように、売買で損失を出す回数が多い程、徴収される額が増えることに。実際の売買では勝ち続けることは難しいですから、かなり無駄に源泉徴収されてしまうのです。
投資の効率が悪い
譲渡益が出れば、それをもともとの原資に組み入れることができます。
仮に、株を3回売買し、3回の売買で10%ずつ利益が出ると仮定すると、
1回目で110%、2回目で110×1.1=121%、3回目で121×1.1=133.1%(実際には原資と全く同じ価格で買える株はないので、あくまでも仮定の話)
これが源泉徴収されると、利益率は10-2=8%なので、1回目で108%、2回目で108×1.08=116.6%、3回目で116.6×1.08=126%です。
つまり源泉徴収なしに比べて、7%目減りしてしまいます。このように投資の効率が悪くなってしまうのです。
頻繁に売買を繰り返している人には向かない
前述したように、売買の回数が多いとその都度徴収が行われるので、取引回数が多いほど損をしてしまいます。つまり頻繁に売買を繰り返すような人には、向かないということが言えるでしょう。
特定口座の有用な活用方法
特定口座の、源泉徴収あり/なしそれぞれのデメリットについて説明しました。これを踏まえて、どちらを選択するかをケースによって考えてみましょう。
なお、源泉徴収あり/なしは口座開設時に選ぶことになりますが、途中で変更することが可能です。ただし、変更は年単位で行うため、変更したい年の前年の年末までに手続きを行う必要があるので注意しましょう。
投資初心者は源泉徴収なしを選ぶ
投資初心者で、最初から少額投資であることが分かっている場合「源泉徴収なし」を選択する方が得です。投資額としては50万円以下の方におすすめ。株式投資には慣れも必要ですので、最初の1年間は勉強するつもりで取り組みましょう。
実際の損益はしっかり把握しておく必要があります。取引は年間の利益総額が20万円を超えない範囲で行いましょう。
投資に慣れ、投資額を増額するという場合には、確定申告を行うか、「源泉徴収あり」に変更するかの、どちらを選択するか決めます。
ただ一般口座と違い、証券会社で「年間取引報告書」を作成してくれますので、確定申告はそれほど面倒なものではありません。
また、源泉徴収ありに変更する場合は、前述したように年末までに手続きが完了するように、進める必要があります。
専業主婦は源泉徴収ありを選ぶ
専業主婦や学生など、扶養になっている人の場合は、源泉徴収ありが無難。扶養がはずれることのデメリットをカバーするには、投資額がある程度大きくなければならないからです。
ただし、少額投資で利益20万円を超えないことが明らかな場合ならば、源泉徴収なしを選択するのもよいでしょう。
利益が増える時は源泉徴収ありに切り替える
「源泉徴収なし」では、年間の利益が20万円におさまる範囲で運用することが必要ですが、もし万一保有している株の含み益(売却前の時価から算出される利益)によって、20万を超えてしまったらどうすればよいのでしょうか?
この場合は3つの対処方法があります。
1.腹を決めて確定申告を行う
2.そのまま源泉徴収の切替タイミングまで待つ
3.売りたいタイミングで、利益総額が20万円を超えない分だけ売却する
この3つのどれかで対応しましょう。
特定口座の正しい使い方を覚えよう
特定口座の「源泉徴収あり」は税金の問題を考えなくとも済む、大変便利なものではありますが、安易にそれを選ぶと、少額投資の場合は損になる割合が大きい、ということがおわかりいただけましたか?
もちろん面倒な思いをしたくない、ということなら迷わず「源泉徴収あり」を選ぶべきでしょう。しかし少しでも増やしたいと思うのならシチュエーションに応じて「源泉徴収あり/なし」を使い分ける、という方法があるのです。賢く運用して、自己資金を増やしましょう。